新型肺炎で中止のMWC 2020、何が注目されるはずだったのか(佐野正弘)

新型コロナウイルスの感染者が増えており、その影響があらゆる場所に出てきているというのは連日の報道で知っている人は多いかと思いますが、IT業界もその例外ではありません。中でも衝撃を与えたのは、2020年2月24日より実施される予定だった「MWC Barcelona 2020」が中止になったことではないでしょうか。▲今年も開催予定だった携帯電話業界の総合見本市イベント「MWC Barcelona」だが、新型コロナウイルスの影響で中止となってしまった。写真は2019年のMWC BarcelonaよりMWC Barcelonaはスペイン・バルセロナで毎年開催されている、モバイル通信に関する世界最大の見本市イベント。携帯電話に関するさまざまな企業が集結し、最新のスマートフォンや、最近であれば次世代通信規格の「5G」に代表される最先端のモバイル通信技術を展示するなど、モバイル通信に関する1年の動向を占う大きなイベントとして注目されています。ですが今年のMWC Barcelonaは、開催時期が新型コロナウイルスが中国で流行し、他国でも影響が出てきているのと同じタイミングとなってしまいました。そうしたことからイベントを主催するGSMAも、会場での握手を禁止にするなどさまざまな対策を打ち出しイベント開始に向け動いていたのですが、世界保健機構(WHO)が緊急事態宣言を打ち出して以降、その影響を懸念した企業が参加を見合わせるようになったのです。最初に参加見合わせを打ち出したのはLGエレクトロニクスですが、その直後にMWC Barcelonaで最大規模のブースを出展しているエリクソンが撤退したことは大きなインパクトを与えたといえるでしょう。それを受けてかエヌビディア、アマゾン・ドット・コム、インテルなど名だたる企業が雪崩を打つようにして不参加を表明、ソニーモバイルコミュニケーションズやNTTドコモ、楽天といった日本企業も次々と参加見合わせを打ち出したのです。▲WHOの緊急事態宣言以降、大手企業が相次いでMWC Barcelonaへの不参加を表明。NTTドコモなどの日本企業も参加見合わせを発表している。写真は2019年のMWC Barcelonaよりそしてノキアまでもが撤退を表明した2020年2月12日、GSMAは緊急会議を実施。その結果として今年のMWC Barcelonaは中止となってしまった訳です。毎年このイベントを取材している筆者にとっても中止の影響は非常に大きく、渡航予定だった飛行機のキャンセルなどで、結構いいスマートフォン1台分くらいのお金が無駄になってしまいました......。ただし、参加見合わせを発表した企業のいくつかは、MWC Barcelonaに合わせて製品やサービスの発表を後日発表する、あるいはライブ配信で発表するなどの対応を取るようです。そう遠くないうちに、本来発表される予定だったデバイスやサービスなどは明らかになってくるでしょう。では今年のMWC Barcelonaが開催された場合、大きな話題になるのは何になっていたと考えられるでしょうか。確かにスマートフォンに関しては、既にシャオミが「Mi10」「Mi 10 Pro」を2月13日に発表しており、オッポも事前に「Find X2」の発表を予告。ソニーモバイルコミュニケーションズも新機種発表を予定しているほか、ファーウェイ・テクノロジーズも「1+8+N」と書かれた扉のようなイラストのティザーを公開し、同社の戦略に関連するさまざまなデバイスを発表されると見られています。▲オッポはMWC Barcelonaに合わせ、「Find X2」の発表イベントを実施予定だったが、MWC Barcelonaの中止を受けて発表会を延期するとしているですが、サムスン電子が2019年に続いて2020年も事前に米国で最新スマートフォンの発表会を実施するなど、最新スマートフォン発表の場としてのMWC Barcelonaのプレゼンスは、ここ最近薄れてきているようにも感じています。"折り畳み"などの新機軸が出てきているとはいえ、IT全体から見ればスマートフォンが与えるインパクトがかつてほど大きくなくなりつつあることから、それはやむを得ない部分もあるでしょう。▲サムスン電子は2020年2月11日(米国時間)に、「Galaxy Z Flip」などのスマートフォン新機種を米国で発表。スマートフォンの発表に関してはMWC Barcelona離れが進みつつあったのも事実だスマートフォンではないとすると、今年のMWC Barcelonaでは何が注目されるはずだったのか?と推測すると、それは参加を見合わせた企業のラインアップから見て取ることができます。従来、このイベントに参加するのはエリクソンやファーウェイ・テクノロジーズなどの通信機器ベンダーや、サムスン電子やソニーモバイルコミュニケーションズなどの端末メーカー、そしてNTTドコモなどの携帯電話会社など、モバイル通信に直接関連する企業が主でした。ですが先に見合わせを表明した企業を見ますと、エヌビディアやアマゾン・ドット・コム、そして5Gのモデムチップ開発から撤退したはずのインテルなど、どちらかといえば通信と直接関係ない企業が多かったように感じられます。ではこうした企業が、MWC Barcelonaで何をアピールしようとしていたのかと考えると、浮上してくるのが「モバイルエッジコンピューティング」(MEC)です。MECとは、基地局など端末に近い場所にサーバーを設置し、本来クラウドがこなす処理の一部をそちらで負担するという技術です。いくら通信速度が速くても、全てをクラウドで処理するとなるとクラウド側の負荷が増えて処理が遅くなり、待ち時間が発生して通信速度低下の要因にもなってしまうことから、処理負担を軽減し通信の高速化につなげるべくMECのような技術が求められている訳です。実際、エヌビディアはMEC用サーバーの開発を進めており、KDDIやソフトバンクとも関係を深めています。またアマゾン・ドット・コムが展開するAWSも、2019年12月にKDDIとMEC環境構築に向けた取り組みを実施すると発表していますし、インテルも2019年2月に楽天と提携し、楽天モバイルとMECに関する取り組みを進めています。国内に関連する事例だけを見ても、MECに関する取り組みは水面下で盛んに進められていることが理解できるでしょう。▲インテルとの提携で楽天が開発したMEC。仮想化技術により汎用のサーバーとソフトを活用することで、基地局設備の1つであるベースバンドユニットとMECを同時に兼ねているのが特徴だそしてMECは、5Gが持つ3つの特徴「高速大容量通信」「超低遅延」「多数同時接続」といった特徴のうち、ネットワーク遅延を大幅に減らし自動運転などの実現に貢献するとされている、超低遅延の実現に寄与する技術とされています。2019年のMWC Barcelonaでは5Gの商用化に向けた取り組みが注目されましたが、現在実現できているのは3つの特徴のうち、高速大容量通信だけに過ぎません。そのためモバイル通信業界では今、5Gの次のステップとして超低遅延の実現に向けた取り組みが進められており、それを実現する上で重要な技術となるMECに関連する企業が、脚光を浴びたのではないかと考えられるのです。2020年、日本では5Gのサービス開始そのものが注目されることになりそうですが、世界、そして通信業界全体を見通すと、今年は5Gの超低遅延とMEC、そして自動運転や遠隔医療など、超低遅延がもたらす未来をどこまで実現できるかという点に関心が大きく移っていくものと考えられます。そのことが消費者に影響を与えるようになるには少し時間がかかるでしょうが、5Gが実現する未来を占う上でも、関心を持っておく必要はあると言えそうです。 広告掲載についてのお問い合わせはad-sales@oath.com までお知らせください。各種データなどはこちらのメディアガイドをあわせてご覧ください。 関連キーワード: mobile, mwc2020

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新型コロナウイルスの感染者が増えており、その影響があらゆる場所に出てきているというのは連日の報道で知っている人は多いかと思いますが、IT業界もその例外ではありません。中でも衝撃を与えたのは、2020年2月24日より実施される予定だった「MWC Barcelona 2020」が中止になったことではないでしょうか。

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▲今年も開催予定だった携帯電話業界の総合見本市イベント「MWC Barcelona」だが、新型コロナウイルスの影響で中止となってしまった。写真は2019年のMWC Barcelonaより

MWC Barcelonaはスペイン・バルセロナで毎年開催されている、モバイル通信に関する世界最大の見本市イベント。携帯電話に関するさまざまな企業が集結し、最新のスマートフォンや、最近であれば次世代通信規格の「5G」に代表される最先端のモバイル通信技術を展示するなど、モバイル通信に関する1年の動向を占う大きなイベントとして注目されています。

ですが今年のMWC Barcelonaは、開催時期が新型コロナウイルスが中国で流行し、他国でも影響が出てきているのと同じタイミングとなってしまいました。そうしたことからイベントを主催するGSMAも、会場での握手を禁止にするなどさまざまな対策を打ち出しイベント開始に向け動いていたのですが、世界保健機構(WHO)が緊急事態宣言を打ち出して以降、その影響を懸念した企業が参加を見合わせるようになったのです。

最初に参加見合わせを打ち出したのはLGエレクトロニクスですが、その直後にMWC Barcelonaで最大規模のブースを出展しているエリクソンが撤退したことは大きなインパクトを与えたといえるでしょう。それを受けてかエヌビディア、アマゾン・ドット・コム、インテルなど名だたる企業が雪崩を打つようにして不参加を表明、ソニーモバイルコミュニケーションズやNTTドコモ、楽天といった日本企業も次々と参加見合わせを打ち出したのです。

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▲WHOの緊急事態宣言以降、大手企業が相次いでMWC Barcelonaへの不参加を表明。NTTドコモなどの日本企業も参加見合わせを発表している。写真は2019年のMWC Barcelonaより

そしてノキアまでもが撤退を表明した2020年2月12日、GSMAは緊急会議を実施。その結果として今年のMWC Barcelonaは中止となってしまった訳です。毎年このイベントを取材している筆者にとっても中止の影響は非常に大きく、渡航予定だった飛行機のキャンセルなどで、結構いいスマートフォン1台分くらいのお金が無駄になってしまいました……。

ただし、参加見合わせを発表した企業のいくつかは、MWC Barcelonaに合わせて製品やサービスの発表を後日発表する、あるいはライブ配信で発表するなどの対応を取るようです。そう遠くないうちに、本来発表される予定だったデバイスやサービスなどは明らかになってくるでしょう。

では今年のMWC Barcelonaが開催された場合、大きな話題になるのは何になっていたと考えられるでしょうか。確かにスマートフォンに関しては、既にシャオミが「Mi10」「Mi 10 Pro」を2月13日に発表しており、オッポも事前に「Find X2」の発表を予告。ソニーモバイルコミュニケーションズも新機種発表を予定しているほか、ファーウェイ・テクノロジーズも「1+8+N」と書かれた扉のようなイラストのティザーを公開し、同社の戦略に関連するさまざまなデバイスを発表されると見られています。

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▲オッポはMWC Barcelonaに合わせ、「Find X2」の発表イベントを実施予定だったが、MWC Barcelonaの中止を受けて発表会を延期するとしている

ですが、サムスン電子が2019年に続いて2020年も事前に米国で最新スマートフォンの発表会を実施するなど、最新スマートフォン発表の場としてのMWC Barcelonaのプレゼンスは、ここ最近薄れてきているようにも感じています。”折り畳み”などの新機軸が出てきているとはいえ、IT全体から見ればスマートフォンが与えるインパクトがかつてほど大きくなくなりつつあることから、それはやむを得ない部分もあるでしょう。

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▲サムスン電子は2020年2月11日(米国時間)に、「Galaxy Z Flip」などのスマートフォン新機種を米国で発表。スマートフォンの発表に関してはMWC Barcelona離れが進みつつあったのも事実だ

スマートフォンではないとすると、今年のMWC Barcelonaでは何が注目されるはずだったのか?と推測すると、それは参加を見合わせた企業のラインアップから見て取ることができます。従来、このイベントに参加するのはエリクソンやファーウェイ・テクノロジーズなどの通信機器ベンダーや、サムスン電子やソニーモバイルコミュニケーションズなどの端末メーカー、そしてNTTドコモなどの携帯電話会社など、モバイル通信に直接関連する企業が主でした。

ですが先に見合わせを表明した企業を見ますと、エヌビディアやアマゾン・ドット・コム、そして5Gのモデムチップ開発から撤退したはずのインテルなど、どちらかといえば通信と直接関係ない企業が多かったように感じられます。ではこうした企業が、MWC Barcelonaで何をアピールしようとしていたのかと考えると、浮上してくるのが「モバイルエッジコンピューティング」(MEC)です。

MECとは、基地局など端末に近い場所にサーバーを設置し、本来クラウドがこなす処理の一部をそちらで負担するという技術です。いくら通信速度が速くても、全てをクラウドで処理するとなるとクラウド側の負荷が増えて処理が遅くなり、待ち時間が発生して通信速度低下の要因にもなってしまうことから、処理負担を軽減し通信の高速化につなげるべくMECのような技術が求められている訳です。

実際、エヌビディアはMEC用サーバーの開発を進めており、KDDIやソフトバンクとも関係を深めています。またアマゾン・ドット・コムが展開するAWSも、2019年12月にKDDIとMEC環境構築に向けた取り組みを実施すると発表していますし、インテルも2019年2月に楽天と提携し、楽天モバイルとMECに関する取り組みを進めています。国内に関連する事例だけを見ても、MECに関する取り組みは水面下で盛んに進められていることが理解できるでしょう。

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▲インテルとの提携で楽天が開発したMEC。仮想化技術により汎用のサーバーとソフトを活用することで、基地局設備の1つであるベースバンドユニットとMECを同時に兼ねているのが特徴だ

そしてMECは、5Gが持つ3つの特徴「高速大容量通信」「超低遅延」「多数同時接続」といった特徴のうち、ネットワーク遅延を大幅に減らし自動運転などの実現に貢献するとされている、超低遅延の実現に寄与する技術とされています。

2019年のMWC Barcelonaでは5Gの商用化に向けた取り組みが注目されましたが、現在実現できているのは3つの特徴のうち、高速大容量通信だけに過ぎません。そのためモバイル通信業界では今、5Gの次のステップとして超低遅延の実現に向けた取り組みが進められており、それを実現する上で重要な技術となるMECに関連する企業が、脚光を浴びたのではないかと考えられるのです。

2020年、日本では5Gのサービス開始そのものが注目されることになりそうですが、世界、そして通信業界全体を見通すと、今年は5Gの超低遅延とMEC、そして自動運転や遠隔医療など、超低遅延がもたらす未来をどこまで実現できるかという点に関心が大きく移っていくものと考えられます。そのことが消費者に影響を与えるようになるには少し時間がかかるでしょうが、5Gが実現する未来を占う上でも、関心を持っておく必要はあると言えそうです。

広告掲載についてのお問い合わせはad-sales@oath.com までお知らせください。各種データなどはこちらのメディアガイドをあわせてご覧ください。

関連キーワード: mobile, mwc2020

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